『フェンスレス』 創刊にあたって

 二〇世紀は「占領」と「開拓」の時代だった。
 この二つの言葉を聞くと、戦前の日本人移民による中国東北部(満洲)・内蒙古での「開拓」や、第二次世界大戦後のGHQによる日本・朝鮮半島の「占領」がすぐに思い浮かぶのではないだろうか。「占領」は、その後の「開拓」や「開発」に接続するだろうし、「開拓地」が資本や基地という形で「占領」されてしまった場合もあるだろう。両者は、ときに継起的であり、ときに反発しあいながら、あらたな葛藤を生み、地域共同体、土地の景観、人々の生活習慣や意識を大きく変化させていった。この二つの言葉をキーワードとして、二〇世紀の文学・映画・演劇や、それらと深くかかわる文化運動・社会運動をふりかえると、どのような光景が見えてくるのか。とりわけ満蒙開拓前夜から、内地の開拓運動が最盛期を過ぎ「列島改造」というあらたな「開拓」(開発)が始まる直前までの半世紀を大きく見渡す地平を「占領開拓期」と呼んでみる。開拓地や基地ばかりではない。工場・炭坑・ダム、あるいは人間の記憶そのものの「占領」と「開拓」。私たちの周囲には有形無形の壁・フェンス・バリケードが何重にも張り巡らされ、私たちはいつもそれに足をすくわれたり、知らずに侵犯したりする。
 無限のテクスト・映像・パフォーマンスが、未だ知られることなく黙している。それらを読み直し、表現を受け継ぐこと。そうした境界を往復し、時にはその線上に危うくとどまって思考することの試みが『フェンスレス』である。

 ——『フェンスレス』創刊号(2013.3.20)